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ハレの日も、ケの日も。漆塗りの器で、少し背筋が伸びる食卓を

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2015.12.04

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その端正なたたずまいに、
特別なときに使うものだと捉えてしまいがちな、漆器。
英語で漆器のことを「japan」というほど、
日本人にとって世界に誇れる工芸品であり、
丈夫で、手入れをすれば一生だって使える日用品なんだとか。

知っているようで知らない漆のこと。
どのように生まれるものなのか、
漆の材料であるウルシを採る「漆掻き」であり、
作家でもある猪狩史幸さんを訪ねました。

 

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浄法寺から車で20分。となりの集落である一戸鳥越地区の古い日本家屋で暮らす猪狩さん。工房は納屋を改装していいます。ちなみに鳥越地区は鈴竹のかご細工で知られています。

やってきたのは、岩手県の二戸駅。東京から新幹線で2時間40分。盛岡よりもさらに北に位置する静かな街です。東北らしい低くなだらかな山麓に猪狩さんの工房はありました。
猪狩さんは、福島県のご出身。会社員を経て漆職人になりたくて石川県輪島で漆塗りの勉強をし、ここ浄法寺へ6年前に移住をしました。
でもなぜ、漆塗りの本場、輪島から浄法寺へ?

「それは、自分の手でウルシを採りたかったからなんです」(猪狩さん)

「浄法寺」というと詳しい人なら漆器のことだとわかるほどの漆の産地。輪島塗りも有名ですが、浄法寺塗りだって負けていません。なんといっても、このあたりの縄文時代の遺跡から接着剤として使われていた漆が発見されるほど、古い歴史を持つのです。

器としての起源は、1200年前。東北最古の寺といわれる天台寺が建立され、僧侶たちが自分たちの食事のために作ったといわれています。昔から、良質のウルシの木々に恵まれた浄法寺。今でも純国産の漆の8割が浄法寺のものとか。

「8割、というと多く聞こえますが、質のいい国産漆は値段も高いから国内を流通する漆のほとんどが中国やベトナム産なんです。純粋な国産漆はたった2%、そのなかの8割なので、実はとっても少ない量なんです」

安い海外産の漆を使った漆器が多く売られ、国産漆の物は値段も倍以上。
日常で漆器を使うことも少なくなって、漆掻きを生業とする人も激減しているとか。この長く続いた日本文化の危機的状況に、寺社、仏像など文化財の保護修復には国産漆を使う、という条例ができたそうですが、それでもまだまだ国産漆をめぐる課題は山積み。
「ウルシを採るって単純な作業に見えて難しいんです。僕も6年やってまだまだ。木を傷つけてその樹液を採る訳だから、木をいためないようにしないといけない。国産漆が必要だからって急にはたくさん採れないし、誰でもできる仕事ではないんです」

 

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ウルシの木の幹に傷を付け、染み出た樹液を少しずつ少しずつ集めます。1本の木からわずか200cc採れるだけ。実に、根気がいる作業。集めたウルシは専用の木の桶に入れて寝かせます。とろりと発酵して、なんだかおいしそう? 

ウルシが採れるシーズンは、6月終わりから夏にかけて。木だって生き物。年中、いつでも樹液が採れるわけではないのだそう。借りているというウルシの林を見回り、木の生長を確認し、ウルシを採るべき木を決めて少しずつ傷を付けて採取します。10−15年かけて大きくなった木から、ウルシが採れるのはひと夏だけ。
「だから、計画的な植林と管理が必要なんです」
かぶれないように長袖長ズボン。蒸し暑い夏、天気にも左右されるため過酷で厳しい作業。こんなふうに地道な作業の上にあの美しい漆器が成り立っているのかと思うと、そりゃあ、値段も高くなってしまう、と納得したのでした。

 

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次は、漆を塗る工房を見せていただきました。漆器作りの作業は、陶芸と違って分業することがほとんど。一つの漆器を作るのに、5~6人もの専門の職人の手が必要なんだとか。まずは、刃物とろくろを使って本体となる木地を作る「木地工程」、下地塗りと研ぎを行う「成形工程」、上塗りする「仕上げ工程」、さらに蒔絵や沈金といった加飾を行う「文様・鏡面工程」。何度も何度も下地塗りと上塗りを繰り返すことで丈夫になり、長く使うほどにツヤも。
それぞれに深い専門性があり、それが工芸品といわれるゆえんでもありますが、猪狩さんは木地作り以外はひとりでされています。
呼吸するような漆器を作りたいと、下塗りはせず、上塗りのみ。朱色や黒などの染料も加えず純粋な漆の色だけを塗り重ねているのでうっすらと木地の木目が透けて見える透明感があるしあがりに。

「僕の器は、住んでいるところが浄法寺と距離が近いということもあってか
浄法寺塗りとよく勘違いされるんです。でも、いわゆる浄法寺塗りとは違うんです。
一番分かりやすい違いは、色です。
僕の器は採れたウルシをただ5回塗り重ねているだけなので
ウルシ本来の色味である黒く半透明な質感が特徴で、
使うごとに中の木地が透けて見えてきます。
漆と木の中間のような器を想像していただけると分かりやすいと思います」

 

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だからでしょうか、猪狩さんが作る漆器には重厚さや気取りがまったくなく、毎日でも使えるカジュアルな雰囲気。実際に、食器棚にずらり積み重なった椀やお皿は猪狩家の食卓で、汁椀、飯椀、取り皿、ケーキ皿、と、あ、こんなふうにも使っていいんだと思えるほど自由に登場します。
「なんとなくかしこまった風に思える漆器ですけど、夏の食卓でもあいますし、毎日でも使える生活道具なんですよ」

日本の文化と歴史を持つ漆器。まずは、お正月を機に汁椀をひとつ、手に取ることからはじめてはいかがでしょうか。ハレの日だけでなく、ケの日の食卓もきっと素敵に彩ってくれて、隠れた物語に少し背筋が伸びるような力があるはず。

 

猪狩史幸 漆器/豆皿<箱入り> ¥5,076
猪狩史幸 漆器/正法寺椀 中<箱入り> ¥10,692

 

取材・文 高橋紡
写真 宮濱祐美子

Writer's Profile
漆掻き 猪狩/猪狩史幸 (いがり まさゆき)さん

1977年福島県本宮市生まれる。
2004年より石川県にて漆塗りの修業を始め、
2009年岩手県二戸市に移住。漆掻きを始める。
2012年に作家として器の制作を始め、個展など
精力的に活動の場を広げている。

予約をすれば見学もできます。
岩手県二戸郡一戸町鳥越字戸屋森9
E-mail igari@urushikaki.net


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