【リレー連載vol.24・山崎瑞弥さん】お米農家のキッチンからは、おいしいものが生まれる

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2018.10.19

良き毎日を過ごしている人は、食べることを大切にしている。キッチンにも、その人らしさがあふれている。そんなgoodな風景が広がる、キッチンをリレー式でお届けします。

 

 

昔の農家のような田の字型の間取りに

 おいしいお米を作る農家「お米やま」として知られる山崎さん夫妻が暮らすのは、埼玉県の田園地帯に建つ一軒家。
 玄関を入るとふたつ扉があり、ひとつは細長い土間、キッチンへ、もうひとつはリビングダイニングへとつながる、というお米の発送作業を効率よくできるような間取り。家の間取りを考えたのは瑞弥さん。9年前、諸事情あって大急ぎで家を建てなければならなくなったそうで、じっくり考える時間があまりないまま完成した、と笑いますが、大きく吹き抜けた天井がすがすがしい家です。
 食を大切にする山崎夫妻のキッチン。いたるところに使い込まれた素敵な調理道具が並び、おいしいものが生まれる気配に満ちています、キッチンの延長には発送作業をするためのデスク、窓際には子どもたちの勉強スペースが。動線としてもよく考えられています。


大勢で座れる存在感があるテーブルは、ヒノキの一枚板。木工所の前を偶然通りがかったところ、板が割れているから、と市販価格の半分以下に。友人に鉄で脚を作ってもらった。


キッチンカウンターと一体化するように造作してもらった食器棚。器や重箱、かご、ざるなど瑞弥さんの日本の手仕事への愛が伝わってくる。


冬の暖は、薪ストーブでとる。


左 夫の宏さん。瑞弥さんから、手ほどきをうけながら揚げ物をあげているところ。奥に見える扉の向こうは土間、玄関へとつながる。
右 こちらの食器棚にも器がぎっしり。


キッチンのあちこちに瑞弥さんの好きなものがちりばめられている。“片口愛”と“ビーカー愛”ははげしいらしい。


お家で食べるお米はもちろん自作のもの。「炊飯は圧力鍋がいちばんおいしい」


給食で使うふたつきトレイを収納に利用。


フライパンは、瑞弥さんが「こういうのを作ってほしい」と大工さんに御願いしたつり下げ式で収納。洗って吊るせば乾いている、というメリットが。

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健康には梅が欠かせない

 田んぼ仕事は長袖長ズボン、首には手拭をまいて足下は長靴の完全武装。作業は比較的涼しい午前中、夕方と決めています。熱中症予防には、梅。山崎家では、毎年30kgの梅が梅干しや梅シロップになって、日々の食事や田んぼ作業の休けい中にいただく。梅干しは年数が経つほど薬効が高まる、と聞いて大切に食べつないでいます。

夏まっさかり。梅干しつくりのため、天日干し中の梅。


梅干しと梅シロップの瓶がずらりと20本以上。梅干しはいろんな塩を使ってみたり、梅シロップはクローブ、シナモンを加えりと、瓶によって味を少しずつかえている。

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筆まめの達筆。オリジナル便せんに込める感謝

 山崎家のお米を買うと、いつも瑞弥さんの手書きのお手紙が同封されてきます。万年筆で縦書きでしたためられた、美しい文字。お礼の言葉や季節のこと、田んぼのこと、そんなことが書かれています。「注文はメールのやりとりになるので、相手の顔もこちらの顔も見えない。なので、できるだけ手紙を添えるようにしているんです」。体を動かす仕事が多い中、机に座って文字を書くことがリフレッシュにもなっているとか。

「深海」「紺碧」など魅力的な色名が付けられたインク。パイロットがプロデュースしたiroshizukuというシリーズで、蔵前の「kakimori」で購入している。


キッチンそばのデスク下。古い小引き出しのなかには、ぎっしりと一筆線が。


籾種ひと粒から始まり、お米が成長する姿が描かれた便せんは、イラストレーター波多野光さんによる山崎家オリジナル。その季節に合わせた絵柄、インクの色を選ぶ喜びがあり、受け取る側も驚きがある。

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愛用の道具

 両親が器好きだった影響で自分も作家ものや骨董の器に興味を持った、という瑞弥さん。結婚をしてからその熱は高まる一方で、田んぼの仕事が終わったら車を都内に走らせ、好きな作家の個展に駆け込むこともしばしば。
 その食器棚のなかの充実ぶりは、著書『お米やま家のまんぷくごはん』(主婦と生活社)の企画段階で編集者が「スタイリストも器のリースも必要がない」と驚いたほど。結果、おののきながらも自らスタイリングも担当することになったのは、今となってはいい思い出。

塩はガラスのビーカーに。焼き塩、海人の藻塩、珠洲揚浜一番塩など様々な塩を料理に合わせて変えている。


「こういう実用的なものも好きですよ」と見せてくれたのは、豆腐の水切りができるステンレス容器。


夜、事務作業をしながら飲むのは、白湯、お茶(本当はビールが飲みたいけれど仕事に差し支えるから我慢!)。いくつも持っているという角掛政志さんの急須は、お湯を注いだときの切れ味がいいそう。

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いつものごはん

 家族4人そろって夕食をとることが日課。時間は、だいたい7時半頃。夫婦そろってお酒はたしなむけれど、夕食後も事務仕事や発送作業があるため晩酌はなし。それでも1時間くらいかけて、ゆっくりごはんをいただく。

カラフルなトマトとモッツァレラチーズのサラダ、削りたての鰹節をのっけたほうれん草のおひたし、ひじきの煮物……。山崎家の食卓は、栄養たっぷりのおかずが並び、ごはんが進む。今日は白ごはんではなく、枝豆とディルを混ぜ込んだごはん。


今回、鉄板料理として作ってくれたのは「鳥と夏野菜の素揚げのレモンあんかけ」。いわば、酢豚の肉を鶏肉に、酢をレモンにかえたもの。レモンが見た目にもさわやか。「鶏肉の方が子ども達が好きなんですよね。それに、こうするとたくさん野菜を食べてくれる」


とても几帳面な瑞弥さん。うまくいったレシピはごらんの通り、ノートにきちんと分量を書き留めている。

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「鶏と夏野菜の素揚げのレモンあんかけ」

鶏むね肉 2枚(500g)
さつまいも 1本(乱切りに)
パプリカ 1個(へた、種をとって1/8にカット)
玉ねぎ 1/2〜1個(くし形切りに)
ナス 1本(乱切りに)
にんじん 1本(皮をむいて乱切りに)
レンコン 1節(スライスして1/4にカット)

<レモンあん>
レモン果汁 レモン1ヶ分
砂糖 大さじ4
しょうゆ 大さじ1
鶏ガラスープの素 大さじ1
水 大さじ6
片栗粉 大さじ1
塩 ひとつまみ
ごま油 ひとたらし

  1. 野菜を素揚げする。
  2. 鶏むね肉はそぎ切りにして酒大さじ1+1/3、しょうゆ1+1/3、黒こしょうで下味を付け、片栗粉をまぶして油で揚げる。
  3. 小鍋にレモンあんの材料を入れ、かき混ぜながら加熱をし、あんを作る。最後にごま油をたらす。
  4. 野菜と鶏肉をレモンあんで和え、器に盛る。スライスしたレモンを添える。

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田んぼのこと

 暑さが少しだけなりを潜めた17時。茨城県つくばにある田んぼに、手入れをしにやってきた山崎さん一家。お兄ちゃんの櫂くんは、もう一人前のファーマーで草取りや虫取りに大活躍。妹の千穂ちゃんはあぜ道からみんなを応援する係。私たち取材チームもほんの1時間だけお手伝いをさせていただきました。
9月に収穫を待つ田んぼ。稲はだんだんと頭を垂れて実り始めていて、夕日を受けてとにかく美しい。
 江戸時代から続く農家の6代目といえど、親戚は「もう、やめたら?」とすすめるなか、かたくなにお米づくりを続けて来た宏さん。無農薬、無化学肥料のお米作りが軌道に乗って来た矢先、2015年9月10日、北関東や東北を襲った豪雨によって鬼怒川の堤防が決壊。山崎さんの田んぼも、泥混じりの豪流の被害にあいました。収穫シーズン、まっただ中のこと。復旧作業も、収穫作業も困難を極めます。土はお米づくりの命。薬に頼らない育て方は、一度手をゆるめたら、できなくなってしまうもの。その農法を1年、また1年と続けてきた山崎夫妻にとって、絶望するには十分なほどのできごとでした。
 あれから3年。またこうして、家族そろって田んぼに入り、収穫を迎えます。

足を負傷してしまい、しばらく松葉杖だった宏さん。今日も無理して田んぼに入ったものの激痛により監督に。はやく回復しますように。


もうすぐ新米の季節。新米が食卓にのぼるとあまりのおいしさに櫂くんはおかずもなしに、ひたすらごはんを食べ続ける。

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しっかり者の妻であり、恐ろしくも優しい母、瑞弥さん。お米を作りたい、という宏さんをサポートする。日本人にとって米は特別なもの。これからも稲作を続けたいと話す。「文化とか使命とか義務ではなく、夫の気持ちを大事にしたいんです」。

山崎瑞弥さん

広島県出身。彫金アトリエに勤務していたが、27歳で江戸時代から6代続く農家の夫と結婚したことから、米農家に。無農薬、無化学肥料で育てる「ひなたの粒」は大人気。器好き、料理好きで著書『お米やま家のまんぷくごはん』(主婦と生活社)では、レシピ開発、料理、スタイリングも手がけた。
11歳と6歳の一男一女の母。

 

キッチンデータ/持ち家木造2階建て 埼玉県

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取材・文/柳澤智子
写真/萬田康文

 


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